運動会に向けて、必死でバイクの練習する社長の孫。
道場では僕が先輩なので、やたら色々聞いて来る2歳上の僕よりも小さいこの人を、『京やん』とよぶ事にした。
名前に京が入るのと僕が頭パンチした鼻が、いつも赤いのが吉本新喜劇の花木京さんに似ているからだ。
京やんは僕をヒロさんと呼ぶ。
色々彼の身の回りの世話や、道場で技の受けを担当しているので、彼なりに尊敬の念があるのかどうかわからないが、たぶん京やんは少し変な人だ。
ジャングラーに喜んで乗っているときに気づいたのですが。
自転車は乗れるみたいですが、バイクにはあまり乗った事がないと本人が言ってたのです。
彼はジャングラーにマジックで名前を書いていたのです。
◼誰もそんな恥ずかしいバイク盗まへんて
柔の帯には、刺繍で漢字がフルネーム刻まれています。
そのフルネーム刺繍の横にマジックで漢字で名前を書いていたのです。
僕のゲタ、セッタには名前が書かれていません。
他の誰もそんなの履いてないから、名前なんか書かなくても1発で自分の履き物がわかるからです。
公道を何年か犬やポケバイに乗って毎日走りまわりましたが、犬に乗ってた人は0。
ポケバイは1人だけ見た事がありましたが市販の既製品でした。
よくよく京やんに話を聞くと、名前書いてないと、近所の悪い奴らがおもちゃを取り上げたり、自転車を取り上げたりするから名前を書いておくのだと。
柔を習いたいのも、そいつらをやっつけたいからやと。
柔道場が居心地良いのは、おもちゃや自転車を取り上げたりする人間がいないのと、稽古が終わったら歳の差関係なく全員で飯食うて遊ぶからだと言う。
◼人の物盗ったら盗人やん
運動会迄にそいつら倒そや!
竹刀とサーベル持って叩いたら泣きよんで。
僕は盗人した奴は棒でドつきまわしてもいいと教育されていました。
実際にバイクを盗みに来た盗人は、土佐犬の太郎にヤラれ、その後に親父に木刀でシバかれお巡りに連れて行かれました。
◼僕は猪木を倒すから子供の盗人ぐらい蚊をパチンとするぐらい
にしか考えてません。
京やんもその気になり、少年ライダー隊のヘルメットを被り竹刀を持ち自転車で、僕はタイガージェットシンのように頭におばあちゃんのネッカチーフをターバンのように巻き、オカンの工場で針金を伸ばして造ったサーベルを片手に太郎号に乗りいざ出陣!
数㎞離れた隣町の学区で、いつもその盗人達が遊ぶ公園に到着。
5人位いましたが何も考えず突撃!
ハタリハタマタ、ハタリハタマタ!タイガージェットシンが反則攻撃をするときに叫ぶ言葉を唱えながら、サーベルを降り下ろしそうになった時にその5人は蜘蛛の子を散らすように逃げ出しました。
悪い奴らと言うても小学生です。
犬に股がり、真っ黒に日焼けした、ターバンを巻いた奴が襲ってきたら逃げるのが正解でしょう。
走って逃げたぐらいではこちらも引けません。
そのうちの一人を捕まえ、泣きじゃくるその子に、取り上げたおもちゃや自転車を持って来るように言いました。
その子の家の前で待ってると小さい自転車、超合金ロボット等のおもちゃ、ラジコン等高そうなものがどんどん運び出されます。
とても京やんの家まで運びきれないほどの量です。
他の奴らの家も片っ端から訪問して、取り上げたおもちゃ等を京やんの家まで持って来るように言いました。
盗人達は泣きながら各オカンに連れられ、京やんの家を訪問し、おもちゃを返して謝って帰って行きました。